© SCARABE CONSULTING, INC.

TOPICSトピックス

金利差縮小でも円安が続く理由~構造的な変化を理解する~

 年末に複数の先生から「日銀が利上げを始めているのに、なぜ円高にならないのでしょうか?」というご質問をいただきました。確かに、米国が利下げを進める一方で日本が利上げに転じれば、金利差が縮小して円高に振れそうなものです。しかし現実には、円相場は1ドル155円近辺と年初とほぼ同水準で推移しています。従来の金利差理論では説明しきれない現象が起きているのです。

 

日本経済を取り巻く構造変化

 円安が続く背景には、いくつかの構造的な要因が重なっています。

 

デジタル経済への構造転換

 最も深刻なのが、デジタルサービスに関する恒常的な外貨流出です。クラウドサービス、動画配信、生成AIといったデジタルサービスの多くを海外企業に依存しており、その対価として継続的に外貨を支払い続けています。

 

 政府の試算によれば、デジタル関連の赤字は2035年には18兆円規模に膨らむ見込みです。これは現在の原油輸入額(約10兆円)を大きく上回る規模です。一方、訪日観光客による旅行収支の黒字は人手不足などで伸び悩んでおり、デジタル赤字を打ち消すことができなくなりつつあります。

 

 この構造は、生成AI技術の普及によってさらに加速する可能性が高く、短期的に解消する見込みは立っていません。

 

国民の資産運用行動の変化

 2024年1月に新NISA制度が導入されて以降、個人投資家の海外投資が大きく拡大しました。海外の投資信託購入に伴う資金流出額は、制度導入前の月平均3,800億円から6,900億円へとほぼ倍増しています。年間では約8兆円、今後は年間10兆円規模の円売り圧力が継続的に発生する計算です。

 

 NISA口座数は現在の2,700万口座から将来的に4,000万口座程度まで増える可能性があり、少なくとも今後5年から10年は、この構造的な円売り圧力が続くと見られています。

 

日本経済の稼ぐ力の低下

 より根本的な問題として、日本経済の国際競争力の低下があります。貿易収支は2021年以降4年連続で赤字が続き、輸入代金の支払いが恒常的な円安圧力となっています。

 

 この35年間で、主要先進国が1人当たりGDPを2倍以上に伸ばす中、日本はほぼ横ばいにとどまっています。

 

 高齢化の進展により、今後も成長力の回復は容易ではありません。通貨の強さは、突き詰めれば「その国の経済の稼ぐ力」を反映します。成長力が低下し、稼ぐ力が相対的に弱まっている状況では、通貨が弱含むのは自然な流れといえます。

 

もう一つの視点:金利と資金の流れ

 金融市場の構造も円安を後押ししています。金利が上昇すると既発債券の価格は下落するため、日本が金利を引き上げれば、海外投資家が資金を引き揚げる動きが出やすくなります。一方、米国が金利を引き下げれば米国債の価格は上昇し、世界中から資金が流入してドルが買われます。

 

 株式市場をはるかに上回る規模で資金が動く債券市場の流れが、金利差の縮小にもかかわらず円安が進む一因となっています。

 

長期的な見通し

 以上のような構造要因は、政策的な対応だけで短期的に解消できるものではありません。デジタル経済への転換、個人の資産運用行動の定着、高齢化による成長制約——これらはいずれも、数年単位で続く大きな流れです。

 財務省や日銀による市場介入は、短期的には為替相場を動かす力を持ちますが、構造的な資金の流れを根本から変えることは困難です。当面、円安基調が続く可能性を念頭に置いておく必要があるでしょう。

 

資産配分の見直しを

 こうした環境変化を踏まえると、円建て資産に過度に偏った資産配分にはリスクが伴います。

 

 円安が進めば、円建て資産の実質的な購買力は目減りします。一方で、外貨建て資産を一定程度保有していれば、為替変動によるリスク分散が図れます。

 

 ご自身の資産配分を見直し、外貨建て資産との適切なバランスを考える良い機会ではないでしょうか。為替の先行きを正確に予測することは誰にもできませんが、構造的な変化を理解したうえで、バランスの取れた資産設計を整えておくことが、長期的な安心につながります。

一覧に戻る