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金利のある世界と、医院の借入 〜自院の体力に見合う水準を測る〜

「金利が上がってきた」というニュースを目にする機会が、この夏はずいぶん増えました。8月には長期金利が一時2.9%台をつけ、約30年ぶりの水準になっています。

ただ、そのニュースが自院の借入や資金繰りにどこまで影響するのかとなると、意外に見えにくいものです。早めに返しておいたほうがいいのか、それとも今のままでいいのか。判断がつかないまま、なんとなく気にかかっている。そんな先生も少なくないはずです。

判断のポイントは、二つあります。今の借入がどれくらいの重さなのか。そして、その借入と付き合いながら医院を経営していけるのか。この二つが見えてくると、返す返さないの前に、自院の借入が今どういう状態にあるのかが分かります。

金利上昇で何が変わるか

金利が上がると何が起きるか。利息が増えます。

たとえば借入残高が1億円ある場合、適用金利が1ポイント上がると、年間の利息負担はおよそ100万円増えます。

問題は、この増えた分をどこから出すかです。保険診療の価格は公的に決められているため、一般の企業のように、コストが上がった分を価格に乗せるという対応が取りにくい。増えた利息は利益を押し下げ、キャッシュフローの余力も削ります。

ただし、その影響がすぐに表れるわけではありません。効いてくるのは、既存の借入の金利見直しのタイミングと、新たに調達するときです。

いずれにせよ、まず知っておきたいのは、今の借入が自院の体力に対してどれくらいの重さなのか、です。

まず1年の返済余力を見る

見ていくのは、1年分の返済からです。

ここで注意が要るのは、元本の返済の扱いです。利息は経費になりますが、元本は違います。元本の返済は、費用として利益を減らしません。一方で、返済した分だけ現金は出ていきます。ですから、決算書の利益だけを眺めていても、返済に回せる資金がどれだけあるのかは分かりません。

目安になるのが、税引後利益に減価償却費を足した金額です。減価償却費は費用として利益を減らしていますが、その期に同額の現金が出ていく費用ではありません。ですから利益に足し戻します。本業から生まれる資金、という意味で本業CFと呼ばれます。

たとえば税引後利益が600万円、減価償却費が1,400万円の医院なら、本業CFは2,000万円。年間の元本返済額が1,000万円であれば、本業から生まれる資金の範囲で返済を賄えています。逆に、返済額のほうが多ければ、不足分は預金を取り崩すか、新たに借りて埋めることになります。

ただし、この2,000万円を全額あてにはできません。減価償却費が計上されているということは、その設備がいずれ更新の時期を迎えるということです。近い将来の入れ替えに備える分は、返済に回せる資金から外して考えておく必要があります。

借入全体の重さを測る

次に、借入の全体を見ます。

借入残高が1億円で、本業CFが2,000万円なら、5年分です。今の稼ぐ力に対して、借入残高がそれだけの大きさにあたるということになります。返済にかかる予定年数ではなく、借入の重さを見るための目安で、金融機関が返済能力を見るときにも、これに近い考え方が使われます。

5年分なのか、10年分なのか、20年分なのか。この年数が長いほど、今の稼ぐ力に対して借入が重いと見ることができます。そして金利が上がれば利息が増え、本業CFは目減りします。稼ぐ力が落ちれば、同じ借入でも年数は伸びます。

返した後の余力を確かめる

返済に使った資金は、戻ってきません。

1,000万円を返せば借入は1,000万円減ります。同時に、手元の現金も1,000万円減ります。半年後に「あの機器を入れ替えなければ」となったとき、その1,000万円を同じ条件で借り直せる保証はありません。

金利が上がっている局面であればなおさらです。手元にある現金と、必要になったときに借りられる現金は、同じ価値ではありません。

そこで、返したあとの姿を数字で確かめます。

返済に充てたあとの預金残高から、これから1年ほどの間に出ていくことが決まっているものを差し引いてみる。納税、賞与、予定している設備の更新。差し引いたあとにも、日々の資金繰りに困らないだけの余力が残るかどうか。

返済に回さなかった資金には、設備の更新にも、人の採用にも、日々の運転資金にも回せるという別の顔があります。だからこそ、金利が高いか低いかだけで返済を決めることはできません。

借入が減れば強くなるのか

ここまでの三つの物差しを並べてみます。1年の返済を本業CFで賄えているか。借入残高は本業CFの何年分か。そして、返したあとに必要な資金が残るか。

借入が減ることと、医院の財務が強くなることは、同じではありません。自院の体力に見合った借入がどれくらいなのかは、この三つを並べてみないと見えてきません。

金利が動いている今、急いで返すかどうかを決める前に、自院の三つの物差しを一度並べてみる。そうしておくことが、動くべきときに動ける状態をつくります。

借入の棚卸しで確認したい項目

実際に手を動かすなら、借入ごとに次の項目を書き出すところからです。

  • 借入先
  • 借入の目的(開業・設備・運転)
  • 借入残高
  • 現在の適用金利
  • 固定か変動か
  • 次回の金利見直し時期
  • 年間の元本返済額
  • 完済予定はいつか

あわせて、現在の現預金残高と、1年以内に予定している大口の支出も並べておきます。

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