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TOPICSトピックス

インフレがもたらす日本への影響

2022.3.8

世界的なインフレの加速

絡み合う複数の要因

 現在世界的なインフレ傾向が続いています。身近な日用品やガソリン代の値上がりなど、日常生活の中にもジワリとその影響が見えるようになってきました。物価の高騰を実感するにつれ、自己資産を守ることへの必要性を感じる方も増えてきています。

 そこで今回はこの世界的なインフレが日本にもたらす影響やインフレ時に有効な資産運用について解説します。

 長引く物価の上昇のきっかけは、コロナ・ショックによって各国が行った金融緩和政策とされています。市場にばら撒かれた通貨は価値を下げ、世界中でインフレ傾向が見られるようになりました。一方、このインフレ傾向を長引かせる特徴的な原因としては、次の3点が挙げられます。

  1. 原油価格の高騰
  2. 半導体など供給制約
  3. 巣ごもり需要の増加による物流の滞り

 当初コロナ・ショックがきっかけであるとされていた今回のインフレですが、その他の要因が絡み合うことで複雑化の様相を見せています。原油価格は災害による採掘施設へのダメージや景気の先行き不安から産出国が増産を見送っていることなどを背景に、世界的に高騰しています。また世界的に在宅ワークが普及したことを発端に、パソコンや自動車などに使う半導体の供給制約も続いています。さらにコロナ禍の巣ごもり需要の高まりが燃料高騰に悩む物流を直撃しました。港にコンテナ船がごった返している映像を見たことのある方も多いでしょう。こうした状況が物価の上昇を生み、インフレを長期化させているのです。

 そのような中、米国では消費者物価指数(CPI)が2021年12月に前年同月比7%と歴史的な上昇を記録しました。当初米連邦準備理事会(FRB)は、今回のインフレは一時的なものであるとの見解を示していましたが、現状では落ち着く様子は見せておらず、金融引締政策への方向転換を余儀なくされています。世界市場に強い影響力を持つ米国での物価上昇は、今後しばらく各国に影響を与え続けると考えられます。

良いインフレと悪いインフレ

日本にもたらす影響は?

 一口にインフレと言っても、大きく分けると次の2種類に分けられます。

  1. デマンドプル・インフレ
  2. コストプッシュ・インフレ

 デマンドプル・インフレは需要が拡大することで物価が上昇して起こるインフレです。供給量を需要が上回っている状態のことで、景気拡大や賃金アップなどが見込めるため一般的には「良いインフレ」と言われます。

 一方、コストプッシュ・インフレは供給側に原因があるインフレです。自 国の貨幣価値の低下からくる輸入物価の上昇などをきっかけに起きることが多く、国内の所得が海外に流出することで景気悪化や賃金ダウンの可能性が高まるため、「悪いインフレ」とも言われます。

 先ほどのインフレ要因を当てはめて考えると、今回のインフレは「悪いインフレ」であるコストプッシュ・インフレであることが分かります。

 原油などのエネルギーや食料を輸入に頼っている日本にとって、コストプッシュ・インフレの傾向が続くことは円安を進める原因となります。実際、2022年1月の物価上昇率を品目別に見てみると、原油価格の高騰や円安の影響を著しく受けているものもあります。たとえば、灯油の価格は対前年同月比で33.4%、漁船の燃料代に影響を受けるブリは28.5%、輸入牛肉10%、半導体を必要とするプリンターやカメラなどでも10%以上の価格上昇が見られました。

水面下で進むインフレ

経済指標が示す日本の実際

 さて、先ほど米国でCPIが歴史的上昇を見せたというお話をしましたが、もともとデフレ傾向の強い日本国内はどうなっているのでしょうか。

 総務省の調査を見てみると、2021年11月のコアコアCPI(CPIから天候や地政学的リスクのある生鮮食品、エネルギー価格を引いた値)は-0.6%となっています。日本はあたかも世界的インフレとは無関係であるようにも見えるでしょう。しかしこれには危険なミスリードの可能性があります。数値だけを見ればインフレ傾向にはないように見える日本経済ですが、その内訳を見 てみるとこの低い数値のからくりが見えてくるのです。

 まず、ひとつめに上げられるのが2021年4月以降に行われた携帯電話の通信料大幅改変です。つまり通信料の値下げの影響で、一次的にCPIが低いように見えていると考えられます。実際、もし値下げが行われていなかったとすれば、CPIは1.5~2%程度だったとも言われています。

 次に日銀が発表する「企業物価指数(CGPI)」を見てみましょう。すると、実は日本の企業物価は急激に上昇していることが分かります。2021年11月 の原材料価格は前年同月 比 でなんと+74.6%。それにもかかわらず最終財の価格は横ばいを続けています。このことからわかるのは、実際にはインフレが進行しているにもかかわらず、企業が利幅を削ることで最終財の価格が維持されているという日本経済の実体です。

 また、内閣府が発表する「GDPギャップ」によると、日本では需要が供給を下回る「デフレギャップ」が起きています。このことからも、現在のインフレは経済成長によるものではなく、ただコストが物価を押し上げているに過ぎないことが分かります。内需の拡大も現段階では望めそうになく、いずれ企業努力にも限界が来ることが懸念されます。

米国の利上げと円安

さらなるインフレの恐れ

 ここにきて米国が金融緩和を改め、金融引き締めに動く可能性が出てきていることにも注意が必要です。2022年2月に公表された1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の要旨では、3月にはゼロ金 利政策の解除や利上げを行う動きがありそうです。

 米国が利上げを行えば、日本では円安が進むと考えられます。これは、市場では高金利の通貨が買われることが多いためです。円安が進むと物資の調達が困難になり、一層インフレ傾向に拍車がかかるでしょう。

 また、2022年度の円の実効実質為替レートが50年ぶりの安値を付けたことも注目したいところ。実効実質為替レートとは、貿易量などをもとに算出された各国の通貨の実力を測る数値のことです。日米など二国間での貨幣価値の差で通貨の実力を測るのではなく、全体的な市場の中での数値なので、より実情を把握しやすいと言えます。この実効実質為替レートが2010年を100としたとき、日本円では現在66.3という低い数値を記録しているのです。この数値は中国や欧米だけでなく、韓国などと比較しても低いものです。実際に昨年1年間での円安は、対米ドル相場で10円以上の値下がりを見せるなど、他の国に比べても早いスピードで貨幣価値が下がっています。

 通貨の実力が下がってきていることからも、今後の円安、インフレ傾向の持続が見込まれるのです。

インフレに負けないために

現金や債券以外を保有する

 ここまで述べてきたように、日本においては今後しばらくインフレ傾向が続くと考えられます。

 一般的にインフレ時には、現金や債券を保有するよりも、物的資産(モノ)を持つことの方が得であると言われています。なぜなら物価が上がることで、資産として保有するモノの価値も値上がりするからです。

 例えば、現在日本では金の取引が活発化し先物取引額が上昇しています。2022年2月には一時7,041円/gをつけて史上最高値を更新しました。

 株式も同じく、インフレに強いと言われる資産です。ただし、企業の経営状況や人件費の高騰にも左右されやすいという特徴もあるので、注意が必要です。企業の見定めに迷ったときには、プロのアドバイスを受けてリスクを軽減することも視野に入 れましょう。

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