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日本人の人生観
2020.10.8
⼭本書店の創業者であり著名な評論家である著者が約40年前に書き下ろした⼈⽣論。⼈⽣の前半を戦前、後半を戦後に⽣きた著者は、終戦という⼤きな転換期で⼈⽣がちょうど半々になった⼈間というのは、その転換なく平穏な⽣涯を送っている⼈とは、少し違った考え⽅があるといいます。明治維新をはさんで前半を徳川時代、後半を明治時代に⽣きた福沢諭吉もそうでしょう。
“戦後だけを⽣きてきた⽅というのは、社会というものは基本的に全然変わらないという信仰を、これはもう理屈ではない、実感としてもち、それを⼀つの前提としておられます。もちろん⼝ではいろいろのことが⾔えますが、その⼈の具体的問題への対処の仕⽅となると、以上の前提を無条件で信じているとしか思えない場合があります。しかし、おそらく福沢諭吉にしても、また私にしても、またその他そういう経験をした⼈にしても、とてもそういう実感はもてないのです。”
著者はわれわれ⽇本⼈の⼤きな特徴として、環境の変化に対してじつにうまく順応できることだといいます。ただこの変化は、決して、将来を予測して⾃ら変⾰を課すわけではなく、常に「外圧」という形をとる。⾃分ではどうにもならない天変地異に対応するような対応の仕⽅です。これは⾮常に楽ですが、環境が変わらないかぎり⾃分のほうは変化しない受動的な態度です。著者はそんな態度を、未来をなんらかの形で構築して、意識的にその⽅向に移っていこうという⽣き⽅が⼤変できにくい社会だと指摘します。
また、教科書に墨を塗って歴史を再構成してしまうような「思想の⾐がえ」を図っていては、逆にわからなくなった過去に呪縛され、無意識の無変化を持続することになりかねないとも述べています。
“未来とは過去の両岸、過ぎ去っていく両岸を標定しながらそれで判定する以外に⽅法はないわけです。これが歴史という意識であろうと思いますが、これによって⾃分たちの未来を想定していくこと、これをおそらく私どもの個⼈個⼈が⼀⽣を⽣きていくうえにも、あるいは⽇本⺠族が⽣きていくうえにも必要でありながら、われわれに最も⽋けている発想だと常に意識しつづけることが、最も良い⽣き⽅ではないか、私はそんなふうに考えております。”
著者は本書を「⽇本⼈の持つ伝統的な⼈⽣観を再確認し、それを俎上に載せて再検討し、その再検討を新しい出発点として将来に対処することを⽬的」として執筆したといいます。
突然の新型コロナウイルスの感染拡⼤によって⽣じた新常態、ニューノーマルへの適応を否応なく求められている今、ぜひお勧めしたい⼀冊です。