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米ドル保有のすすめ 長期目線で円安のリスクヘッジを

 日銀が公表する最新の「資金循環統計」によれば、日本の家庭が保有する金融資産の大半が円建てとなっています。私たちの日常生活では、多くの取引が日本円で行われますから、大半の資産を円で保有していたとしても特に問題はないと感じるかもしれません。ですがこれは一種の錯覚に過ぎません。

 実際には、私たちの生活に必要なエネルギーや食料の多くは、海外からの輸入に頼っており、日々の為替レートや商品市況の影響を強く受けています。円の購買力、つまり私たちの円建て資産は常に価値が低下するリスクにさらされていると言えます。

 特に最近の円安基調は、私たちの生活に直接的な影響を与えています。円安が進行すると、海外からの輸入品の価格は高騰し、結果的に生活コストが上昇します。エネルギー価格や食料品の価格上昇がそれを顕著に表しており、円の購買力が低下していることが明らかです。

出典)エネルギー価格のデータ: FRED (Federal Reserve Bank of St. Louis)​​、食料品のインフレデータ: Trading Economics​

 そこで注目されるのが、米ドルの保有です。米ドルを持つことで、輸入価格の上昇に対するリスクヘッジが可能となり、資産価値の下落を防ぐことができます。過去数十年、米ドルは多くの期間において、日本の物価上昇率を上回る利回りがありました。

 為替レートも2012年以降は円安方向に動いており、将来的にもこの傾向が続く可能性が高いと予測されています。日本の低金利政策が続いていること、そして貿易赤字の是正が難しいことから、円安ドル高の基調は今後も続くと見られています。

 このような状況の中で、資産を日本円だけで保有していることはリスクでしかありません。むしろ円で資産を保有することは、相対的に「損をする」可能性が高いと言えます。日本の実質金利は未だにマイナスから脱却できず、円の価値は弱いままで推移しています。さらに、人口減少や高齢化に伴い、日本の経済成長は鈍化し、円安でも輸出による利益を十分に確保できない状況に陥っています。これに加えて、日本政府の債務は増大し続けており、長期的に日本経済の回復が見込めない中で、円の価値が回復する見通しは薄いのが現実です。

 ここで重要なのは、米ドルの保有が「お勧め」というよりも、資産を日本円で集中して持つことが、現状ではリスクであるという視点です。米ドルを保有することで、米国金利の優位性を享受しながら、円の購買力低下に対する防衛策を講じることができます。特に人生100年時代においては、長期的な資産防衛がこれまで以上に重要になります。資産価値が将来にわたって減少しないよう、堅実なリスクヘッジが求められているのです。

 今後も米国との金利差が大きく変わらない限り、ドル高・円安のトレンドが続くと考えられます。また、日本の貿易赤字や国内の経済状況を考慮すると、輸出産業がかつてのように強い影響力を持つことも難しくなってきています。このような環境では、資産の一部を米ドルで保有することは、理にかなったリスクヘッジ手段と言えるでしょう。

出典)FRED (Federal Reserve Bank of St. Louis)
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