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円満な相続のために

2021.5.16

年々増え続ける相続トラブル

 65歳以上の⼈⼝が21%超となる社会を「超⾼齢社会」といいますが、⽇本がそこに突⼊したのは今から14年前の2007年。今では「終活」という⾔葉も⼀般的となり、相続にまつわるご相談も多くいただくようになりました。

 誰もが円満に済ませたい相続ではありますが、年々相続トラブルは増加傾向にあります。2018年に起こった相続争いの調停・審判は1万5706件。2000年から2020年にかけての20年間で、調停に発展した件数は1.5倍以上に増えており、今後もさらに増えていくことが予想されます。

 背景には、⼀⼈ひとりの権利意識の変化があります。戦後までの⽇本の法律では、親の遺産はすべて⻑男が相続する「家督相続」という考え⽅が取られていました。ところが終戦間もない1947年、「男⼥平等・夫婦平等・複数の⼦の平等」という理念のもと、⽇本国憲法が制定され、相続のルールがこれまでの「家督相続」から「均分相続」へと変わります。「平等」はとても良い概念ですが、⽪⾁なことに私たち⼀⼈ひとりの権利意識を増⼤させることで、相続における⾻⾁の争いをも増やすことになりました。

 今回は相続を円滑に進めるうえでのポイントについて解説していきたいと思います。

遺言書の有無と遺留分

 相続が発⽣すると亡くなった⽅の遺産はルールに沿って分けられます。その際にポイントとなるのが遺⾔書の有無。遺⾔書がある場合は、その内容通りに遺産を分けることになります。遺⾔書が無い場合は、遺産分割協議という相続⼈全員による話し合いによって分け⽅を決めることになります。必ずしも「配偶者が2分の1、⼦が2分の1」といった法定相続分通りに分ける必要はありません。

 ただし、ここで注意したいのが遺留分という制度の存在。遺留分とは、「遺族の⽣活を保障するため、最低限これだけは相続できる」という権利を指します。たとえ遺⾔書に「親不孝だった⻑男には1円も相続させない」と書いてあったとしても、本⼈が主張するなら最低限保障されている遺留分は相続できる権利があります。

 遺留分は法定相続分の半分。相続⼈が配偶者と⼦3⼈の場合、配偶者は4分の1、⼦は12分の1が遺留分です。遺産が1億円であれば遺留分は配偶者が2500万円、⼦はそれぞれ833万円となります。

 「遺⾔書があれば⾃分の気持ち通りに分け⽅を決められるが、遺留分だけは侵せない」と覚えましょう。せっかく遺⾔書を作っても、遺留分を侵害する内容になっていれば、争いの⽕種になってしまうので注意が必要です。

認知症を発症したら

 認知症を発症したら、法律上「意思能⼒のない⼈」と扱われる可能性があり、相続対策はできなくなります。意思能⼒のない中で⾏われた法律⾏為(遺⾔書を書く、⽣前贈与をする等)はすべて無効となり法的効⼒を持ちません。認知症になってしまう前に相続対策は完結させておく必要があります。

親の通帳管理を巡るトラブル

 相続争いのよくあるパターンとして、⽣前中、故⼈の預⾦を相続⼈が横領した、しないの争いです。親に介護が必要な状態になると、親の通帳、印鑑、キャッシュカードを同居している⼦が管理するようになるのは珍しくありません。相続が発⽣した後、親の通帳から引き出した現⾦の使い道が兄弟間でトラブルの⽕種となります。

 もちろん横領は違法ですが、していないのに疑われるケースも多々あります。簡単な帳簿で良いので作成することをお勧めします。親から通帳の管理を任された場合は①現⾦でいつ、いくら引き出したか、②その現⾦を何に使ったか、を記録に残しておきます。ノートの左ページに現⾦引き出しの⽇付、⾦額、使い道、右ページにレシートを貼っておきましょう。

無用なトラブルを起こさないコツ

 無⽤なトラブルを起こさず円満な相続をするためのコツを3つお伝えします。

 ひとつは相続が発⽣する前に、家族会議で相続⽅針について明確にしておくこと。これが最も効果的です。⼦の多くは、遺産を少しでも多く相続したいわけではありません。家族間でもめ事が起きるのが嫌だから相続の話をきちんとしておきたいと思っています。しかし、肝⼼の親は「縁起の悪い話だ」、「遺産の中から相続税を払えばいいだろう」、「⾃分が死んだ後のことまで知らない」と避ける⽅もいます。確かに気持ちの良い話ではありませんが、相続の準備を⾏わず、万が⼀トラブルが発⽣してしまったら、「⽣前に対策はできたはずなのに…」と後悔の念を持たれてしまいます。⼦から親に相続の話を切り出すのはとても勇気がいるもの。できれば親の⽴場から相続の話を切り出せるとベストです。

 ⼆つ⽬は専⾨家に現状分析を依頼し、問題点を把握することです。 遺産をどのように分けるのか、相続税はどれくらい発⽣するのか、当⾯の⽣活に困らないだけの資⾦は確保できるのか、といった課題を予め把握する作業をします。そもそもどれくらいの財産があるのかを把握することが⼤切です。相続税は遺産の分け⽅次第で何倍にも変わる税⾦なので、気持ちだけで分け⽅を決めるのは危険です。多少の費⽤は掛かりますが現状分析と問題点の把握については、専⾨家に依頼することをお勧めします。

 三つ⽬は相続⼈の間での秘密は極⼒避けること。 良かれと思い他の相続⼈に秘密で特定の⼦にだけ⽣前贈与をするケースがありますが、これは後々になって発覚することがあるのでお勧めできません。相続税の申告書には、相続が発⽣する前3年以内に⾏われた⽣前贈与や、⽣命保険⾦の受取⼈とその⾦額をすべて記載しなければならないからです。もし特定の相続⼈に⽣前贈与などをするのであれば、家族会議の場で伝えておくことをお勧めします。

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