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震災から10年 いま私たちができること

東日本大震災から10年

 先⽉11⽇、戦後最悪の被害をもたらした東⽇本⼤震災から10年が経ちました。私たちの住む⽇本は世界有数の地震国で、過去においては⼤きな地震災害にたびたび⾒舞われてきました。さて、現在の⽇本列島で地震による激甚災害が懸念されるものに、「⾸都直下地震」と「南海トラフ巨⼤地震」があります。⾸都直下地震はいつ起きてもおかしくない直下型地震で、南海トラフ巨⼤地震は東⽇本より⼀桁⼤きな災害が予測される太平洋沿岸を襲う巨⼤地震です。いずれも⽇本経済を直撃する未曾有の災害になることが確実視されていますが、こうしたことについて私たちは普段あまり考えることはありません。そこで今回は東⽇本⼤震災を上回る⼈的・経済被害が想定されている南海トラフ巨⼤地震を取り上げ、私たちが

いまできることについて考えてみたいと思います。

 政府の地震調査委員会によれば、南海トラフ巨⼤地震はマグニチュード8~9の地震で今後30年以内に70~80%の確率で発⽣すると予測しています。2019年5⽉時点での被害想定ですが、死者⾏⽅不明者は東⽇本⼤震災の約12倍の23.1万⼈。全壊・焼失棟数は最⼤で209.4万棟に及びます。また南海トラフには東海・東南海・南海の3つの震源域があり、その近傍には太平洋ベルト地帯という⼤⼯業・産業地域があります。ここで巨⼤地震が発⽣すれば⽇本の産業経済を直撃することは免れません。予想される経済的被害は207.8兆円と試算されており、これは東⽇本⼤震災の被害総額の10倍以上、また、国家予算の約2倍に上ります。

近年発⽣した南海トラフ沿いの巨⼤地震には、1944年の昭和東南海地震、46年の昭和南海地震がありますが、それぞれの震源域においてやや不規則ながら90∼150年おきに起きるという周期性があることもわかってきています。そしてこの周期において、三回に⼀回は超弩級の巨⼤地震が発⽣しており、よく知られているものとして1707年の宝永地震と、1361年の正平地震があります。実はこれから南海トラフ沿いで起きる次回の巨⼤地震は、この三回に⼀回の番にあたります。すなわち、東海・東南海・南海の三つが同時に発⽣する「連動型地震」というシナリオです。1707年の宝永地震の規模はM8.6ですが近い将来起きる連動型地震はM9.1と予測されています。つまり、東⽇本⼤震災に匹敵するような巨⼤地震が⻄⽇本で予想されるのです。

巨大地震が富士山噴火を誘発

 南海トラフ巨⼤地震のような海溝型の巨⼤地震が発⽣すると、しばらくしてから⽕⼭が噴⽕することがあります。2004年12⽉に起きたスマトラ島沖巨⼤地震では、地震が起きた後、2005年4⽉から複数の⽕⼭で噴⽕が始まり、⼀年半後には⽕砕流が発⽣。300⼈を超える犠牲者が出ています。また世界最⼤の地震と⾔われる1960年のチリ地震(M9.5)の⼆⽇後には、コルドン・カウジェ⽕⼭が噴⽕しています。地下の条件がよく似ている⽇本でも巨⼤地震が引き⾦となって噴⽕が始まってもまったく不思議ではありません。実際、南海トラフで起きた1707年の宝永地震の際には、その49⽇後に富⼠⼭が噴⽕しています。これは富⼠⼭の歴史でも最⼤級の噴⽕であり、当時の噴⽕⼝は宝永⽕⼝と呼ばれ今でも富⼠⼭の南東斜⾯にぽっかりと⼤きな⽳を⾒ることができます。

 仮に南海トラフ巨⼤地震が発⽣した後、富⼠⼭噴⽕が起こったとしたらどれほどの被害が想定されるのでしょうか。富⼠⼭ハザードマップ検討委員会がまとめた2004年の報告書によれば、300年前の宝永噴⽕と同規模の噴⽕が起こった場合、都⼼を中⼼に⼤規模な被害が想定されます。噴⽯による死傷者は1万3600万⼈、降灰によって電気、ガス、⽔道といったライフラインが停⽌、交通機関はすべて通⾏不能となります。あたり⼀帯の農業被害も想定されます。他にも⽕⼭灰による影響で約1250万⼈の⽬、⿐、のどに異常を引き起こし、医療費が跳ね上がることも考えられます。

国土強靭化の取り組み 世界から注目される日本

 東⽇本⼤震災以降、政府は⼤規模⾃然災害が起きた際に⼈命を守り、経済社会への被害が致命的にならないよう、レジリエンス(回復⼒)のある国⼟、経済社会システムを構築するための「国⼟強靭化基本計画」を進めています。また2015年に仙台で⾏われた世界防災世界会議においては、2030年までの国際的な防災指針を定めた「仙台防災枠組」が採択されました。東⽇本⼤震災から⽇本はどのように復興していくのか。度重なる⼤災害における教訓が世界においてどのように活かされていくのか。⽇本は世界中から注⽬されているのです。現政権では今年度より2025年までの5年間に15兆円ほどの事業規模で防災・減災、国⼟強靭化のための123の対策に重点的に取り組むことを決めています。

50年先から“いま”を考える

 ⼀⽅で私たち個⼈個⼈ができることには何があるでしょうか。政府予測の通り今後30年以内に南海トラフ巨⼤地震が発⽣するのであれば、先の未来から逆算で“いま”を考えてみるとそのヒントが得られるかもしれません。例えば40年、50年先の未来から⾃分のライフプランを捉えてみる。社会システムや政治制度はどのように変化しているのでしょうか。今いる場所に住み続けたとして、震災を何回経験することになるのでしょう。加えて⽕⼭噴⽕による被害を1回は経験することになるかもしれません。

 さて、はたして預⾦でお⾦を持つことは安全といえるのでしょうか。国外資産に投資するという選択はリスク分散につながります。南海トラフ巨⼤地震が起きれば30mの津波が太平洋沿岸を襲うでしょう。その場所に家を建てる選択はありでしょうか。都⼼の⾼層マンションに住めば、⽇ごろから⽔の問題を考えておかねばなりません。停電によりエレベーターが停⽌すれば⾼層階まで⽔を運ぶのは困難を極めます。⾼額な現物資産を持つのなら災害時にカバン⼀つで逃げられるようにしておく。腕時計、ダイヤモンド、⾦、それともビットコインでしょうか。3回くらいの天災があったとして⾃分はどのような⼈⽣を⽣きているか、このように考えれば、いまあるひとつひとつの選択肢をより確信を持って選べるのかもしれません。

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