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組織の成果を決定づける心理的安全性
2022.1.28
VUCAの世界~現状維持は衰退へと続く道~
今日の社会を特徴づけるVUCAという言葉をご存じでしょうか。不安定(Volatility)、不確実( Uncertainly ) 、複雑( Complexity ) 、曖昧(Ambiguity)の4つの英単語の頭文字を組み合わせたもので、激しく変化する世界情勢やビジネス環境を表しています。
価値観、社会構造、顧客ニーズなど、さまざまなものが激しく変化し続けますから、企業体は成長を続けなければ現状維持どころか衰退の一途をたどることになりかねません。
生産性の高いチームの特性
最近、ビジネスシーンにおいてチームづくりの重要性がいわれます。成果を出し続けるには激しい環境変化に柔軟に対応できる多様性に富んだ集合知が必要だからです。
『世界最高のチーム』(ピョートル・フェリクス・グジバチ著、朝日新聞出版)では生産性の高いチームには5つの特性があるといいます。そして、その中でも一番大切なのが今回のテーマである「心理的安全性」です。
成果を生み出すための土台
心理的安全性が確保されたチームの中では、メンバー一人ひとりが安心して、自分らしく振舞うことができます。お互い安心してなんでも言い合えるという状態です。これが成果を生み出すための土台となります。
裏を返せば、メンバーがチームに対して心理的安全性を感じていなければ、チームを信頼することはできないし、どんなに目標や計画、役割が明確であっても、仕事に意味を見出すことができず、社会的なインパクトをもたらすことはできないということになります。
私は普段、「キャッシュフローコーチ」という役割を通して、経営者の本業の発展をサポートさせていただいています。その一環として「院長・社長 と従業員の立場の違いからくる危機感のズレを第三者的に縮め、ベクトルを揃える」場づくりを行っています。そこで大事になってくるのもこの心理的安全性です。
ちなみに私の所属している日本キャッシュフローコーチ協会では、これをAAP(安心・安全・ポジティブ)という合言葉で表現しています。短く覚えやすいフレーズにすることで、メンバー全員が直感的に理解し、あらゆる場面においてその効果を活用できるようにするためです。
腐ったリンゴとおいしいリンゴ
『最強チームをつくる方法』(ダニエル・コイル著、かんき出版)の中で、チームが成果を出すためにはいかに心理的安全性の確保が大切なのかがわかるエピソードが出てきます。
オーストラリアで行われた大学実験で、特定の人物のとる行動がチームにどんな影響を与えるかを調べるというもの。とあるスタートアップ企業のためにマーケティング戦略を立てるというプロジェクトを立ち上げ、その中に特定の行動を演じる人物Aをメンバーの一人として送り込みます。
演じる行動は3パターン。「攻撃的、反抗的な性格が悪い人」「労力を出し惜しむ怠け者」「愚痴や文句を言って周りを暗くする人」。
例えば「愚痴や文句を言って周りを暗くする人」のパターン。当初、ミーティングに集まったメンバーは、みんなやる気に満ちあふれています。しかし実験のために送り込まれたAさんだけは暗い顔で何も言わず、ずっと下を向いています。すると、他のメンバーもそのAさんをまねるようになります。無口で、疲れていて、やる気が感じられない。ミーティングが終わるころには、さらに3人のメンバーがその人物と同じように腕を組んで下を向いてしまいました。
実験によればどのパターンでもかならず30~ 40%はパフォーマンスを低下させることができましたが、例外が1つだけありました。Aさんがいくら頑張ってもパフォーマンスが落ちないのです。
原因は一人のメンバーBさんでした。このBさんがいるチームでは、Aさんがいくら毒を注入してもBさんによって中和され、他のメンバーはすぐにやる気を取り戻し、また目標に向かって邁進していきます。興味深いのはBさんが特別なことは何もしていないように見えることです。
実験映像でBさんの行動を分析してわかったのは、Aさんが毒を放つたびに、Bさんはすぐに毒を中和させるような行動をとっていたことでした。穏やかな態度で場の緊張を和らげ、その場にいる人々を安心させます。次にBさんは簡単な質問をして他の人の発言を促し、相手の答えを熱心に聞きます。するとチームの活気が復活し、メンバーは再び心を開いて自由に意見を交換するようになりました。
大切なのは、Bさんの存在によってみんなが安心できるということ。「ここは安全な場所です。だから怖がらないで自分の意見を言ってほしい。みんなの考えをぜひ聞かせてほしい」というメッセージです。特に大したことはしていないのに、チームが1つになって活気づくのです。
前置きトークでAAPな場づくりを
私が関わらせていただいている顧問先で会議のファシリテート(進行)役をさせていただくことがあります。会議の中身を実りあるものにするために必要なのもやはり心理的安全性の確保。AAP(安心・安全・ポジティブ)な場づくりです。非難されたり、つまらないと思われることを恐れてメンバー一人ひとりが縮こまるような環境ではいいアイデアが生まれないからです。
そこで私はその場にいるスタッフの方全員が発言しやすくなるよう、「積み石効果と捨て石効果」という前置きトークをするようにしています。
─ある会議の場で誰も発言しない状況が起きました。その中である人物が口火を切って意見を出します。その意見は誰でも思いつくような平凡な意見だったかもしれません。けれども勇気を出して意見を言ってくれたことが素晴らしいのです。
それを聞いた別の人が「今の意見を聞いて思いついたのですが…」と発言します。その2人目 の意見を聞いて3人目、4人目と続いていく。前の人の意見が誘い水となって、別の意見が出てくる「積み石効果」という現象です。
そして20番目の意見がとてもいいアイデアだったとします。後日このアイデアが成果となって売上アップにつながりました。さてこれは誰の手柄でしょうか。20番目の人でしょうか?最初に発言した人でしょうか?いいえ、そこにいた全員の手柄です。20番目の意見が出たのは19番目の人がいいトスを上げたおかげですし、18番目の意見があったからこそ積み重ねられたのです。
捨て石効果というのもあります。会議の場において、石が積みあがっていくばかりではなく、時には的外れなことを言う人もいます。この意見にも実は重要な意味があります。せっかく出した答えに対して、「それ、違うよね」と否定する発言をしたら、とたんに石は崩れていきます。もしある意見Aが的外れだったとしても、問題ありません。なぜなら「AではなくBですね」という意見が後に続くことで正しい方向を全員が共有できるからです。Aという捨て石がBという正しい答えを導いたのです。─
「積み石効果と捨て石効果」のお話は今月のお勧めの書籍『プロの思考整理術』(和仁達也著、かんき出版)に詳しい内容が記されていますので、興味があればぜひ手に取ってみてください。