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注目の金投資

2020.11.14

約40年ぶりの⾼値更新

 今年8⽉、⾦市場において⾦価格がドル建て、円建てともに最⾼値を記録しました。⽥中貴⾦属のホームページを覗くと2020年8⽉の税抜参考⼩売価格はドル建てで2,067.15ドル、円建てで7,769円とあります。ドル建てでは約9年ぶり、円建てにいたっては約40年ぶりの⾼値更新です。

 書店を覗けば資産運⽤のコーナーに⾦投資に関する書籍が多く置かれており、その注⽬ぶりがわかります。

安全・安⼼の実物資産

 ⾦を資産として保有するという⾏為について、まず思い浮かぶのが安全資産としての機能でしょう。国際紛争や経済危機、⾃然災害などの⾮常事態によって株式市場が⼤きく下落するような局⾯では避難先として資⾦が⾦に流れ込みます。

 株式をはじめ現⾦や債券といった⾦融資産は国や企業体の裏付けがなければ価値を持ちません。⾮常事態によって裏付けとなる国や企業体が破綻するようなことがあれば、その⾦融資産も価値を失うことになります。

 対して⾦は現物資産であり、それ⾃体に価値があるため無価値になることはありません。また、⾦は「価格が底抜けしない」という安⼼感もあります。⾦を採掘するにはコストがかかりますが、平均すると1オンスあたり1,000∼1,200ドル。⾦の採掘も企業活動ですから、市場価格が下がってコスト割れしてしまっては採掘できません。つまり⾦価格が1,200ドルを割ると⾦鉱⼭は減産もしくは⽣産を停⽌します。結果、⾦の供給量が減ることで需給が引き締まり1,200ドル近辺で底値が形成されることになります。

 ⾦の埋蔵量は有限であり紙幣のように供給量を増やすことができないという希少性もあります。これまでに採掘された⾦の総量は19万7,500トン。21.7㎥の⽴⽅体ほどの⼤きさです。また、推定されている⾦の埋蔵量は残り54,000トン程度とされ、現在の⽣産規模(年間3,300∼3,500トン)が続くとするとあと15∼17年で枯渇することになります。

 今後採掘量が減少し採掘年数が増えるか、⾦価格上昇により増えた開発予算で新鉱脈の発⾒が続くのか。現状では採掘量は徐々に減る⽅向にありますから、⾦価格上昇の1つの要因になるでしょう。

⾦に対して下がり続けるドルの価値

 今回のコロナショックのように⾮常事態で株式などの資産価値が急落する際、⼈々は安全資産を求めます。このようなときには、⾦と並び、通常ドルが買われます。それは、さまざまな国際的な決済がドルで⾏われているからです。

 国際通貨基⾦(IMF)が今年7⽉に公表したデータによると、2020年第1四半期の世界全体の外貨準備⾼は11兆7310億ドルで、そのうちドルは6兆7940億ドル。通貨準備総額に占める割合は61.9%と、ドルは世界の決済通貨として中⼼的な地位を占めていることがわかります。

 しかし、現在までドルの価値が⼀定であったかというと必ずしもそうではありません。実際、1971年の⾦に対するドルの価値を100とすると、現時点のドルの価値は1.9程度でしかありません。この50年間で⾦に対するドルの価値は50分の1以下になっているという現実があります(図1)。

図1 ドルの金に対する価値の変遷
データは2018年2⽉までBundesbank(ドイツ連邦銀⾏)、それ以降World Bank-Commodity Markets、グラフは当社作成

デジタル通貨がもたらすもの

 通貨価値が下落する⼀⽅で、今後はデジタル通貨(CBDC)が台頭してくるかもしれません。今回のコロナ禍により、現⾦を⼿にする機会がかなり減ったと感じる⼈は多いのではないでしょうか。

 ウイルス感染予防のため、世界各地の消費者は感染の可能性がある紙幣から離れ、より接触の少ない購買⾏動を選ぶようになっています。⽇本においても今後、キャッシュレス化はますます加速していきそうです。

 これまで現⾦のデジタル化に対して消極的だった世界各国の中央銀⾏も変わりつつあります。今年6⽉、⽶連邦準備理事会(FRB)のパウエル議⻑は「デジタル通貨は、我々が最も先端で、最も深く理解しなければならない」と⽶議会にて述べています。⽇本でも政府の⾻太の⽅針に、中銀デジタル通貨を検討することが盛り込まれました。

デジタル資本主義と⾦の関係

 デジタル通貨は発⾏しようと思えば無尽蔵に発⾏することができます。実物通貨と違い、物理的な費⽤はかからず、発⾏する場所や設備も必要ありません。だからこそ、確固たる信⽤を担保する必要が出てきます。ビットコインやイーサリアムといった⺠間の暗号資産がなかなか普及しないのはまさに裏付けとなる信⽤がないからでしょう。今後、台頭してくるデジタル資本主義の裏付けには「⾦」が使われる可能性も念頭に置いておく必要がありそうです。

 デジタル⼈⺠元の開発を急ぐ中国が近年、⾦を買い進めているのは、将来このような動きに備えたものである可能性もあります。現在、中国の外貨準備に占める⾦の割合はわずか3.6%(2020年9⽉現在)。主要国並みの60∼70%まで⽐率を引き上げようとすれば相当量の⾦を購⼊する必要があります。資産保全のために、そして⾃国通貨の弱さを補填するために、今後も⾦購⼊を継続していくでしょう。そして、購⼊された⾦が市場に出回ることはまずありません。つまり、⾦需給は着実に引き締まり、⾦価格はこれまで以上に下がりづらくなるでしょう。

⾦の平均年間リターンは?

 ⾦は⾦利が付かず配当もないため、「保有しているだけではリターンもキャッシュフローも⽣まない」とはよく⾔われることです。しかし過去20年の⾦の平均年間リターンは10%程度で、実際には株式や債券よりも⾼いリターンが得られています。

 ⽶経済学者のジェレミー・シーゲル⽒の調査によれば、株式・債券・⾦の⻑期運⽤において、直近ではむしろ株式のリターンは低下しており、⾦が⾼くなっているとのことです。

 私たち⽇本⼈の場合、資産ポートフォリオの4~13%程度を⾦で運⽤することにより、分散投資効果が得られ、運⽤パフォーマンスも向上することがわかっています。

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