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大暴落1929

2021.2.17

「大暴落1929」 ジョン・K・ガルブレイス 日経BP社

 新型コロナウイルスの感染拡⼤が続く中、実体経済と反⽐例するかのように株式市場は世界的に上昇を続けています。⽶国株式市場は昨年1年間で40%を超える上昇を記録、⽇経平均は現在3万円超えを⽬指す展開となっています。現在の株式市場の状態が「バブル」の状態であるか否かという議論は尽きませんが、かつてFRB元議⻑であったアラン・グリーンスパン⽒は「バブルは崩壊した後にならないとわからないものだ」と述べたことは有名です。

 今回ご紹介するのは、1955年に初版が刊⾏され、現在に⾄るまで株価暴落のたびに多くの投資家に読まれてきた名著。本書には世界恐慌のきっかけとなる1929年に起きた⽶国株式市場の⼤暴落の前後数年間に渡る出来事が克明に記述されており、当時のウォール街のリアルな空気を感じることができます。

 第⼀次世界⼤戦後、そして本誌でも取り上げたスパニッシュインフルエンザ収束ののち、⽶国は社会、芸術、⽂化が⼒強く花開いた「狂騒の20年代」と呼ばれる時代に突⼊し、前例のないほどの経済成⻑が続きます。特にウォール街は世界を リードする⾦融センターの⼀つとなり、20年代半ばから上昇を続けた株式市場は、1928年から1929年にかけて急速に上昇。投資の⼀⼤ブームを巻き起こします。当時は富と過剰の時代であり投機の危険性についてもたびたび警告があったにもかかわらず多くの者は市場が⾼い⽔準を維持できるものと信じ込んでいました。

 “1929年3⽉にウォーバーグが⾏った予⾔は驚くほど正しかった。FRBはもっと強⼒な政策をとるべきであり、現在のような『無節操な投機』の狂乱を直ちに終わらせないといずれ災厄が起きることは間違いない。それで損害を被るのは投機筋だけではない、「国全体を巻き込む⼤不況が起きかねない」と予⾔したのである。

 ウォール街は猛反発する。ウォーバーグを時代遅れと切り捨てるだけで満⾜したのは市場関係者の中でも鷹揚な⽅だった。「アメリカの繁栄をぶちこわす発⾔」だと息巻く者もいれば、ウォーバーグは空売りをしているからあんなことを⾔うのだと邪推する向きもあった。市場がぐんぐん上がり続けると、ウォーバーグの警告は軽蔑されるだけになった。”

 株式市場は6年間上がり続け、1929年9⽉3⽇に最⾼値をつけたあと、1カ⽉かけて17%下落。その後、下げ幅の半分を回復するも直後に再度下落。⼤暴落初⽇となる1929年10⽉24⽇の出来⾼は当時の記録破りとなる1289万株に達し、その多くは株価が⼀本調⼦で下げてからでなければ買い⼿が現れないという状態でした。その後、機関投資家による組織的な買い⽀えで⼀旦は落ち着きを取り戻しますが、再び暴落が始まります。

 “1929年の⼤暴落の際⽴った特徴は、最悪の事態がじつは最悪でなく、さらに悪化し続けたことである。今⽇こそこれで終わりだと思われたことが、次の⽇には、あれは始まりに過ぎなかったのだとわかるのだった。”

 ⼤暴落に続く⼤恐慌では、年によってひどくなったり和らいだりしながらも、10年続くことになります。

 “1929年秋の⼤暴落は、それに先⽴つ投機ブームの中で育まれていた。ブームというものは必ず終わるのであって、わからないのは、いつまで続くか、ということだけである。”

 いまがバブルか否かは崩壊した後にならないとわからないかもしれませんが、本書を読めば少なくとも現在の株式市場の状況を冷静に観察する⼿助けにはなるはずです。

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