© SCARABE CONSULTING, INC.

TOPICSトピックス

異次元緩和の罪と罰

2025.3.28

山本 謙三著 講談社現代新書

 

 異次元緩和は、日本経済に何を残し、何を失わせたのか。本書はその11年の全体像を振り返り、副作用の本質と政策の構造的問題を丁寧に検証しています。著者は長く日本銀行に在籍し、金融市場や国際関係、決済システムなどに携わった経験をもとに、金融政策を制度や運営の観点から掘り下げています。

 

 政策当局が掲げてきた「物価目標2%」という旗印のもと、なぜ経済は思うように動かなかったのか。金融緩和の長期化がもたらした「財政規律の弛緩」「市場機能の低下」「金融システムの弱体化」といった副作用は、今もなお日本経済の足元に影を落としています。本書は、これらの現象が一時的ではなく構造的である可能性を示し、政策の出口がいかに困難なものとなるかを丁寧に論じています。

 

 加えて本書では、中央銀行の独立性や政策運営の継続性、国と通貨の信認といったテーマにも踏み込み、金融政策が制度全体に及ぼす影響の広がりを明らかにしています。単なる金融政策の回顧にとどまらず、日本経済が抱える本質的な課題――生産性の伸び悩みや市場の硬直性――を見通す視点を提供します。異次元緩和の総括を通じて、これからの経済運営を考えるうえで手がかりとなる一冊です。

一覧に戻る