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キャッシュリッチほど、損をする? ~貯まり続けるお金と出口設計の発想~

「先生、その法人のお金、本当に先生のものですか?」

「何を当然のことを」と思われた先生もいらっしゃるかもしれません。しかし法律上の答えは、少し違います。

医療法人と院長先生は、「別人格」です。法人口座に積み上がったお金は法人のものであり、院長先生個人の財産ではありません。個人事業であれば、利益はそのまま手元に残ります。しかし医療法人の場合、利益を院長先生個人のものにするためには、決められた方法で「移す」手続きが必要です。

この当たり前のようで、意外と腑に落ちていない事実——これが、医療法人経営において見落とされがちな落とし穴になっています。

なぜ法人にお金が貯まり続けるのか

多くの院長先生が、法人の利益を個人に移すことをためらいます。その最大の理由は「重税感」です。

役員報酬を増やせば、所得税・住民税・社会保険料が重くのしかかります。収入の額面を上げても、手取りの増加は想像より小さい。それならば「法人に置いておいた方がマシ」という判断は、一見合理的に見えます。

こうして毎年少しずつ、法人の内部留保が積み上がっていきます。しかし、「法人に置いておく」ことは「安全に保管している」こととイコールではありません。ここに、見落とされがちな2つのコストが潜んでいます。

「置いておく」ことの2つのコスト

ひとつは、インフレによる実質価値の目減りです。法人口座の預金残高は変わりません。しかし物価が上がり続ける環境では、同じ金額で買えるものが年々減っていきます。仮に年3%のインフレが20年続いた場合、1億円の購買力は約5,440万円相当まで低下します。数字は変わっていないのに、約4,560万円分の価値が静かに失われている計算です。「法人に置いておけば安心」という感覚が、長い時間軸では大きなコストになり得ます。

もうひとつは、相続・事業承継時のコスト増大です。出資持分のある医療法人の場合、法人の純資産が増えるほど出資持分の評価額が上がります。内部留保が厚くなるほど、将来の相続や承継の際に発生する税負担が大きくなる可能性があります。出資持分のない医療法人においても、法人に積み上がったお金は解散時に個人へ戻ることはなく、限られた手段でしか個人に移せない構造があります。

「稼いでいるのに、自分の資産が増えている実感がない」——そう感じる先生がいるとすれば、それはこの構造が原因かもしれません。

出口を「先に」設計するという発想

では、どう考えればよいのか。ひとつの答えは、「出口を先に決める」という発想の転換です。

法人のお金を個人に移す手段は、実は限られています。役員報酬として毎期受け取るか、退職のタイミングでまとめて受け取るか、あるいは医院の設備や価値向上に再投資するか。いずれの方法も、「いつ・いくら・どのように」を事前に決めておくかどうかで、結果が大きく変わります。

出口を先に決めると、次の問いが自然に生まれます。「それまでの間、法人のお金をどう置いておくべきか」「必要なときに動かせる形になっているか」「財源は十分に準備できているか」——これらの問いに答えを持っている先生と、そうでない先生とでは、10年後・20年後の手取りと承継コストに大きな差が生まれます。

法人のお金を「とりあえず置いておく」から「目的を持って動かす」へ。この発想の転換が、医療法人経営における資産設計の核心です。

「先生の法人のお金は、いつ・誰に・どの形で移るか、設計されていますか?」

この問いに即座に答えられる先生は、それほど多くありません。法人の規模や年齢、家族構成、後継者の有無によって、最適な設計は一人ひとり異なります。

また出口の設計に早すぎるということはなく、気づいたときには選択肢が狭まっていた、というケースも少なくありません。

ご自身の状況に合った全体設計については、ぜひ一度、専門家とじっくり話し合う機会を持っていただければと思います。

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