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DXの思考法
2021.9.17
DXの思考法 西山 圭太著 文藝春秋
ハンコ文化をなくす、ファクスをやめる、会議はもちろんリモートで…。DX(デジタル・トランスフォーメーション)で語られる話のほとんどが「デジタル技術を使って業務改善をやります」という、ちょっと前のIT化の話。本書に書かれているのはこうした「なんちゃってDX」論ではありません。
一時期は「電子立国」と言われ、世界の競争のなかで独り勝ちすらしていた日本。いまやGAFAに遠く引き離され、アリババやテンセントにも一足飛びに抜かされる。日本の経済と企業が停滞に陥ったこの30年間はデジタル敗戦の歴史でもありました。
その原因の本質といえば、高度経済成長期以来続いてきたわが国の「カイシャのロジック」と世界を動かす「デジタル化のロジック」のずれである。日本の経済・産業システムの第一線で活躍してきた著者は、こう断言します。
1989年の冷戦終結からグローバル化の時代を経て、デジタル化の時代へ。コンピュータや人工知能の発達を含むデジタル化の歴史は、人類の課題を解く共通解を探求し、創造することでした。デジタル化の根底には、単純な仕掛けをつくり、目の前にないものも含めて何でもできてしまうかもしれない、という「一般化・抽象化の思想」が流れているのです。
そして、これが世界を動かす「デジタル化のロジック」とすれば、ものづくりを得意とするが故、すぐに「極める」という「具体」に走ってしまう日本の「カイシャのロジック」では、これから先は戦えないということになります。
“高度経済成長期の成長を支えたカイシャや日本産業のもっていた基本的な原理やロジックと、現在のグローバル経済を突き動かしているロジック、デジタル化のロジックとが合わなくなってしまっている。換言すればタテ割りの行動様式とは合わない、デジタル化のロジックがある、ということである。”
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の「トランスフォーメーション」とは「かたちが跡形もなくすっかり変わる」ということを意味します。今の時代が「決定的な考え方の転換」を求めているわけですが、地図なくして旅はできません。
本書ではいまのデジタル化の世界がどうなっているかを示す白地図について語り、そしてその白地図に自らを書き込み、地図を書き換えるとはどういうことなのかを解説しています。
一見するとデジタル技術についての小難しい話が書かれているのかと思いきや、書かれているのはこれからの時代の経営に求められる思考法についてです。
“ソフトウェアは「抽象化」に馴染む。ハードウェアと比べれば、頻繁に変更・アップデートできるからだ。ハードウェアは、容易に変更できないために、既に存在する具体から離れることが難しい。それで、具体を大事にし、作りこみ、深化する、ということになる。ソフトウェアはしょっちゅう手を加えられるので、ハードウェアと比べれば具体から自由になることができる。むしろ抽象つまりは課題に徹底的にこだわるべきなのだ。そして、抽象、課題を突き詰めたものが企業として実現したい価値であるはずだ。”
私たち日本人の多くは目に見えるモノから発想し、それを緻密に洗練させることは得意ですが、システムや制度といった無形のものを論理的に認識し発想することは苦手なようです。本書はデジタル化の本質的な意味合いを理解し、マインドリセットしてビジネスの最前線で闘い続けるための武器を与えてくれるはずです。